ソーシャル・ネットワークを観た(n回目)

もう何度目かわからない「ソーシャル・ネットワーク」を観た。相変わらずジェシー・アイゼンバーグの理屈っぽいが、幼稚さも残っているマークの演技がうまかった。

マークは天才であることを除けば、どこにでもいる教室の隅っこ系男子であり、映画冒頭から恋人に文脈を完全に無視したマシンガントークを浴びせ続けドン引きさせるというオタクっぷりを遺憾無く披露している。初対面の人と会う時には、アワアワと口ごもったかと思えば途端に早口になることをくりかえす自分としては感情移入せずにはいられない。マークはその後すぐ恋人の過去の恋愛関係を嘲笑し、さすがにブチギレた彼女からあっけなくフラれる。

こんな感じでオタクくんなので、彼が学内ピラミッド頂点のファイナルズクラブを羨望の眼差しで眺めていることも責められないだろう。クラブメンバーたちはきっとGoogleだとかマッキンゼーだとか、そんな感じのアメリカズビッグカンパニーに入るだが起業するだがをして綺麗な奥さんと結婚して、子供二人、犬一匹と幸せに暮らしていくことが決定されている人たちだ。マークは彼らに嫉妬心も抱きながらも、同じにはなりたくないのだろう。「ハーバードコネクション」のアイデアを持ちかけられた時、その仕事を受けておきながらも、速攻でアイデアをパクって影で「The Facebook」を完成させるという謎の大胆さを見せる。

そんなハーバード的な人たちと対極にいるにも関わらず、なおかつ成功している人としてショーンがいる。ショーンはいかにも頭の良さそうなウィットに富んだジョークを言いながらも、たまにビジネスセンスに溢れた雰囲気の発言をかますので、ファイナルズクラブとは異なる方向での成功を模索するマークにとってはぴったりのロールモデルとなる。最初は「The Facebook」から「The」を取るアドバイスを受けたぐらいだったが、やがてマークはショーンが過去にフラれた投資家までわざわざパジャマで会いに行き、ただただ侮辱して帰るという荒唐無稽なことをやらされ、操り人形ポジションに落ち着いてしまう。

マークはあまりにショーンを妄信しすぎたためか、唯一の親友のエドワルドくんの株をいきなりごっそり奪い去るという、ブルータスもびっくりの裏切りをしてしまう。しかし激怒したエドワルドを見てさすがに我に帰ったのかすぐにしょんぼりし、「I'm CEO bitch」というショーンから勧められたダサすぎる名刺を捨てている様から、さすがにやりすぎたと反省したようである。その後ショーンが未成年との薬物を使った遊びが捕まったことを聞いたマークは、そのタイミングで失った友情の大きさを悟ったに違いない。

マークはビジネスを大成功に導き、最年少でビリオネアになり、その代償として友情を失った。マークはそんなに「Bad person(悪い人間)」だろうか。誰しも、多少なりとも仄暗い後悔を持って生きているだろう。人生で毎日が春の木漏れ日を浴びながら暖かく幸せに過ごせるわけではなく、土砂降りの雨の中人を傷つける日だってある。しかし卑屈になる必要はない。
マークも最後元カノに友達申請を送ったのは、わざわざ罵倒を送りつけるためではないだろう。

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランドを読んだ

計算士、記号士、シャフリング、音抜き、、、説明のないまま次々と世界観をつくる要素が提示される。極め付けはファンタジー調な「世界の終わり」側で進行する物語。謎の一角獣たちがウヨウヨしている明らかに現実離れした世界に放り込まれた主人公。穏やかながらもなにやら不穏な雰囲気が漂う世界。
これらのSFあるいはファンタジー的な要素は登場当初、とくに解説されず物語は進むが、この不親切さが好奇心を刺激し、読んでいて世界に巻き込まれる感覚に変換され、世界観に没入することができた。
SFとファンタジーの融合のようだったが、そのオシャレさと、主人公たちのキザっぽさも相まって、これまで読んだどの物語とも一風変わった雰囲気を感じさせる。

なぜだか「しかしもう一度私が私の人生をやりなおせるとしても、私はやはり同じような人生を辿るだろうという気がした」という一文にひどく心を打たれた。「私」は陰謀に巻き込まれ、最終的に自分自身の内面の世界に囚われ、一日ほどで実質的に死んでしまうという状況に追い込まれる。当初は怒りも覚えるが、最終的にはその状況を受け入れ、悲惨ともいえる状況を作り出した組織や博士に対しても感情的にならず最後まで冷静に接している。当然、過去の自分の責任を責めるようなこともしない。他人、そしてなによりも自分を許すということを選んだことを見習いたいと思った。

といいつつもこの「私」はやや受動的で内省的すぎるきらいがあるので、そこは見習いたくない。

ちなみにだが、本作も物語としては非常に面白かったのだが、どうしても村上春樹の言い回しに私はドップリ浸ることができない。きっと教養が足りないということになるのだろうが、たびたび登場する洋楽や過去の名著の引用がさっぱりわからないのだ。「ダニーボーイ」って何?どなたか現代人用にNetflixとYoutuberを引用したバージョンを作ってくれないだろうか。

何かを考えて書き残したい

真剣に頭を働かす必要がなくなってからしばらく経ち、ふとしたときに自分の思考力と記憶力の下降傾向にぞっとすることが増えた。前日の晩御飯は思い出せないし、映画を見ても本を読んでも「面白い」か「つまらない」以外のコメントが出てこない。中でも「6x7」の答えが出てこなかった時が最も退化の恐怖を感じた。

書き残すことで少しでも脳が活性化させたい。ツルツルの脳みそに少しでもシワが刻まれることを祈って。