世界の終りとハードボイルド・ワンダーランドを読んだ

計算士、記号士、シャフリング、音抜き、、、説明のないまま次々と世界観をつくる要素が提示される。極め付けはファンタジー調な「世界の終わり」側で進行する物語。謎の一角獣たちがウヨウヨしている明らかに現実離れした世界に放り込まれた主人公。穏やかながらもなにやら不穏な雰囲気が漂う世界。
これらのSFあるいはファンタジー的な要素は登場当初、とくに解説されず物語は進むが、この不親切さが好奇心を刺激し、読んでいて世界に巻き込まれる感覚に変換され、世界観に没入することができた。
SFとファンタジーの融合のようだったが、そのオシャレさと、主人公たちのキザっぽさも相まって、これまで読んだどの物語とも一風変わった雰囲気を感じさせる。

なぜだか「しかしもう一度私が私の人生をやりなおせるとしても、私はやはり同じような人生を辿るだろうという気がした」という一文にひどく心を打たれた。「私」は陰謀に巻き込まれ、最終的に自分自身の内面の世界に囚われ、一日ほどで実質的に死んでしまうという状況に追い込まれる。当初は怒りも覚えるが、最終的にはその状況を受け入れ、悲惨ともいえる状況を作り出した組織や博士に対しても感情的にならず最後まで冷静に接している。当然、過去の自分の責任を責めるようなこともしない。他人、そしてなによりも自分を許すということを選んだことを見習いたいと思った。

といいつつもこの「私」はやや受動的で内省的すぎるきらいがあるので、そこは見習いたくない。

ちなみにだが、本作も物語としては非常に面白かったのだが、どうしても村上春樹の言い回しに私はドップリ浸ることができない。きっと教養が足りないということになるのだろうが、たびたび登場する洋楽や過去の名著の引用がさっぱりわからないのだ。「ダニーボーイ」って何?どなたか現代人用にNetflixとYoutuberを引用したバージョンを作ってくれないだろうか。